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AWS(Abused Women Support)

応援メッセージ

「あなただけができる、しかしあなただけではできない」自立と相互支援の両輪が必要


2012/05/20

「あなただけができる、しかしあなただけではできない」自立と相互支援の両輪が必要

稲邑恭子氏より応援メッセージ 1

<当事者の体験知の重要性>

自助グループの支援事業に先駆的に取り組んできた財団法人横浜市男女共同参画推進協会は、2000年5月にセルフヘルプ・(自助)グループの研究で著名なトマシーナ・ボークマンさん(ジョージ・メーソン大学教授)を招いて米国でのセルフヘルプ・グループの動向やその課題について講演会を開催した。

セルフヘルプ・グループに関する従来の研究では「訓練を受けていない素人の知識」は知識や体験の有無にかかわらずひとくくりにされ「専門職の知識」に劣るとされていたが、ボークマンさんはセルフヘルプ・グループの持つ「当事者の体験的知識」という概念を提唱し、「客観的」であるために、患者からクライアントからある程度の情緒的距離を置こうとする専門家の「専門知」に対して、生活丸ごとの中でその人をケアしようとするがゆえに、情緒的・主観的であり、なおかつ具体的・実用的・全体的である当事者の「体験知」を独自なものとして対比させ、両者の「知」のメリットとデメリットを明らかにしつつ、専門家とセルフヘルプ・グループの協力と連携の可能性を示唆した。

また同時に、セルフヘルプ・グループ(人)も、発展段階に従い、自らの経験を開いて常に学ぶ姿勢のあるグループ(人)と、自分たちのやりかたに固執し硬直化し閉鎖的になるグループ(人)に分かれることを指摘し、専門家の主張が専門家であるがゆえに無前提に正しいのではないのと同様に、当事者の主張も当事者であるがゆえに無前提に正しいのではないこと、また当事者も当事者全体を代表することはできないことという、連携に際して生じるであろう課題にも触れている。また、「セルフヘルプ」と「相互扶助」の二つをどちらも必要であるとし、「あなただけができる、しかしあなただけではできない」と述べていることは、自立とお互いの支え合いが両輪のように必要であることを言いえて妙である。

トマシーナ・ボークマンさんは当事者の体験知の重要性を次のように語っている。

何らかの傷つき体験があり支援者になっている人が多いので支援者と当事者という風にわけることは実際上難しいが、DVなどの傷つき体験がある当事者は、自分自身の体験と重なってしまうゆえに支援に過剰にのめりこみ、距離が近くなって相手に巻き込まれトラブルになるリスクが高いという弱点はあるが、しかし、上記のことさえクリアできれば、同様の被害を体験したものとして被害者の気持ちが手にとるようによくわかり、危険察知能力など、自らの体験からくる体験知の集積もあり、行き届いたサポートを提供できる支援者になれる。また被害からの回復のロ−ルモデルとして後に続く女性たちを勇気付け元気付ける存在にもなる。

自分のつらい体験が、ほかの女性たちをエンパワーできるという手ごたえを感じることができれば、DVサバイバーの方たちにとっても何よりのエンパワメントになるのではないかと思う。

それゆえ、DVのサバイバーからの発信の場をつくり、渦中にいる被害者や予備軍の女性たちに届けることはDV被害を防止し、被害が深刻にならないうちに被害者を救出する上でも非常に重要であり、またサバイバーの回復のためにも有効である。

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